君は私よりも背が少し高い。
君は私よりも話すのが少し早い。
君は私よりも歩くのが少し速い。
私はいつだって君に追いつこうと必死なんだ。
つま先で立って、必死で君の背中を追っている。


















帰 り 道


























夕日がとてもきれいだと思った。
それに比べて私はなんて醜いんだと思った。
私は君の一歩後ろを歩いている。
斜め前で君の夕日色の髪が君の歩調に合わせて揺れていた。
君は鞄を肩から斜めにかけて、ポケットに片手を入れて
鼻歌を歌いながら、いかにもやる気がなさそうに歩いている。
君のポケットに入れていない方の手は私の手元にあった。
君は斜め後ろに手を伸ばしているだけで、
私は斜め前に手を伸ばしているだけで。
ただ指先が触れているだけ。
秋風のせいか君の指先はとても冷たかった。
手を繋いでいるとはとても言えない。
私が少しでも歩調を乱せばすぐに離れてしまう。
少しでも風が強く吹いたら離れてしまう。
私はいつだって歩くのが速い君に付いて行くので必死だ。
そのせいで君の歌っている歌がなんの歌かなんて考える余裕が無かった。
その何だか判らない鼻歌のせいで、私が話し掛ける余地もない。












風で乱れた前髪を君に触れていない方の手でそっと直した。
いつ君が振り向いてくれてもいいように。




















君 の 冷 た い 指 先 を 握 る 勇 気 が 欲 し い 。

















「ねぇ」





「…ん?」








私の小さな呼びかけに君の鼻歌が途切れた。
君は立ち止まらずに一回だけ後ろを向いた。
もしかしたら聞こえていないかもしれない…と思ったからホッとした。
それなのに少しだけ次の言葉に詰まった。
君のその声が、たったその一言が優しすぎた。









「…数学のテストどうだった?」
思わずどうでもいい質問をしてしまった。
君を呼び止めたのはいいけど、話の内容なんて考えていなかった。
「そういや、そんなもんもあったかなぁー…。」
君は苦笑いを浮かべてまた前を向いてしまった。
…もっといい質問があったかもしれない。
私はいつだってつまらない質問を君に繰り返す。
はっきり言って答えの内容なんてどうでもよかった。
ただ君が答えをくれるのが嬉しくて、会話が続くのが嬉しかった。
そうして今度はまた会話が途切れないように新しい質問をする。
「俺きっと再テストになるなー…。」
「え?また受けるの?」
「ううん。だって何回やったって同じだもん。」
「あはは、キヨらしいね。」
「だろ?数学なんてさーおつり誤魔化されない程度判ってれば十分だよ。」
君は少しだけ笑った。
斜め前にいる君の表情は見えなかったけど私には判る。
…君の指先が少し動いた。












た だ 君 と 楽 し く 話 が し た い だ け な の に 。
















「もし…私がいなくなったら…悲しい?」


「………?」


「もし私が他の人の所に行っちゃったら?」


「どうしようかなぁ…。」


「じゃあ、私が死んじゃったらどうする?」


「それは困るなぁ…。」






私は歩くのを速めて君の顔が見える位置まで行った。
答えを望む子供のように君の顔を覗き込んだ。
君は遠くを見ながら少し困ったように笑った。
期待とはほど遠く、私に視線を合わせてはくれなかった。
…なんて馬鹿な事を聞いているんだろう。
答えなんて判りきっているのに。
君だってきっとこんな私にうんざりしている。
君は「どこにも行くな」って必死で止めてはくれないよね…







「もしも私が…ううん、ごめんね。」


「え?何が?」


「今、キヨが思ってる事にごめん。」


「別に何も怒ってないよ?」






そう言って君は優しく笑った。
「そんな事を言うな」って怒鳴って怒ってはくれない。
君は私が居なくなったって、きっと私の事なんか三秒後には忘れて
違う女の子と歩幅を合わせて楽しそう歩いているのかな。
…何を考えているんだろう、私は。
微かな期待が砕け散ってまた傷ついて。
それでも君が優しく笑うから、そばに居たいと願ってしまう。
握れない冷たい指先とは裏腹に君の歩調は相変わらず速い。
もう余計な事を考えるのはやめよう…虚しくなるだけだ。












「ちょっと、ごめん。」











気まずい空気を破るかのように携帯の音がした。
その音と同時に指先が離れた。
君は立ち止まりポケットから携帯を取り出して誰かと会話を始めた。
離れた指先は行き先もなく、ただ風だけが冷たく感じた。











ほ ら 、 も う 私 の 事 な ん て 忘 れ て し ま っ た で し ょ ?











さっきまでの君の微かな体温を確かめるように
自然と離れてしまった指先をもう片方の手で強く握り締めた。
通話に夢中で歩き始めようとしない君を私はじっと待っていた。
君の楽しそうな笑い声が帰り道に響いた。
人の少ない道路を車が何台か通った。
目の行き場がないから車のナンバーを見ていた。
それでもどうしても君の誰かとの会話を聞いてしまう。
ふと君の口から私の知らない人の名前がこぼれた。
それだけで今の私は心に何か刺さったようで涙が出そうになる。
気を紛らわそうとさっき見た車のナンバーを思い出したりしていた。
それでも君が通話を終えた時に備えてまた乱れた前髪を直した。
今、ここで大声で泣くことが許されたらどんなに楽だろう。




















ねぇ、楽しそうに…誰と話してるの?




















「うん、………判ったよー、判ったって。はいはい、じゃあね〜。」
君は通話を終え携帯をたたんでポケットにしまった。
「ごめんね〜。」
「ううん。」
私は精一杯の笑顔で気にしてないよって言った。
その離れてしまった指先にもう一度触れたくても踏み出す勇気なんてなかった。
誰と会話してたの?なんて怖くて聞けやしなかった。
次に出る言葉を捜したけれど…見つからなかった。
ただ心拍数だけが上がっている気がする。
「…気になる?」
「え?何が…?」
「俺が誰と話してたか。」















心 に 思 っ た 事 を 口 に し て し ま っ た の か と 思 っ た 。



















「べ、別にそんな事ないよ。」
思わず事態に一瞬息が詰まって声が裏返りそうになったけど
冷静に私は君が誰と話そうとそんな事気にしないのよって女を演じた。
「うそ〜?」
君は楽しそうに私を試すかのように笑って居た。
「嘘じゃないよ。」
同じ声のトーンで、淡々と言葉を吐き捨てた…これがせめてもの強がりだった。
心拍数が更に上がっていく。
「ははは、いじけないでよ〜。」
「いじけてないよ!!」
思わずさっきまでの冷静さが砕けて、必死な大きな声が出る。
強がりを見抜かれた気がして慌てて否定をした。
「判ったって、そんなに怒らないでよ〜!」
「怒ってないよ!!」
「あっくんだよ、あっくん。」






「……あっくん?」






君の口から零れた聞きなれた名前を聞いた瞬間に
私のさっきのもやもやが一気にどこかに吹き飛んだ。
状況を把握出来ず、きょとんとする私を前に君は話し続ける。
「そうそう、聞いてよ、昨日さ、あっくんから借りたDVDのケース割っちゃったんだよね。
 今日黙って返したら、今気づいたらしく怒って電話がかかってきてさ;」
「黙って返したの?」
「だって絶対怒るじゃん!んで笑って人のせいにして誤魔化したら更に怒って;」
(さっきの知らない人かな…。)
「1週間昼ご飯おごるって事で和解〜。さすがにキツいなぁ〜…。」
「…あはっ。」








本気で困る君に思わず笑みがこぼれた。
ゆっくりと呼吸をして自然と心を落ちつかせた。
「笑わないでよ〜…こっちは真剣なんだからさ〜…。
 あっくんが今から殴りに来るっていうから必死だったんだから。」
「あはは、あっくんらしい…。」
「もーこっちは命がいくつあっても足りないっつーの…;あっくんからはもう物借りない!」













その一言で私の不安を飛ばしてしまう君は、あの強暴なあっくんよりも誰よりも
神 様 よ り も す ご い 。

















「じゃ、行こっか。」










そう言って君は、私に笑顔で手を差し出した。














「え…?」
私は今起きている事態が理解出来なかった。
「え?じゃないでしょ…;一緒に帰らないの?キヨ泣いちゃう…。」
「か、帰る!」
慌てて差し伸べられた君の手に自分の手を重ねた。
君は黙ってゆっくりと手を握ってくれた。
その瞬間に重ねた手のひらから全身に君の体温が行き渡った。
そうして君はゆっくりと歩き出した。
私は嬉しすぎてなんだかくすぐったくて、
だから君に見えないように下を向いて思いっきり笑った。
















ど う し て 君 に は 私 の 考 え て い る 事 が 判 っ て し ま う の ?















そしてしばらく無言で歩く中、突然君が立ち止まった。
私は少しためらったけれど、君に合わせて足を止めた。












「俺さ…」
「ん?」
「やっぱりがいなくなったら…どうなるか判んないや。
 多分頭がおかしくなって、周りの奴をぶん殴ったり暴れてるんじゃないかな。」
「………。」
「きっともう自分じゃどうしようも出来ないよ。」
「………。」
「考えただけでもさ、なんつーか…うん、やっぱり考えるのも駄目だ。」
「………。」
「だからさ…もうそんな事、嘘でも言わないでよ。」
「………。」
「ね?」
「………うん。」











君は悲しそうに笑って私の頭を反対の手で優しく撫でた。
さっきまでふざけて話していた君が、急に真面目に話し出すものだから、
いつもヘラヘラ笑っている君が、真面目な顔で悲しそうに笑うものだから、
私の頭を撫でる君の手が、いつもより大きくて暖かくて優しすぎたものだから、
私はどうしていいか判らなくて…謝る事も出来ずにただ黙ってうなずくしか出来なかった。
思いっきりうなずいた衝動で堪えていた涙が零れてしまった。
涙と一緒にさっきまでの汚い感情が一瞬で溶けて流れていく気がした。
何を考えていたのかもう忘れてしまった。
どうして君の笑顔や、たった一言で私の汚い感情が消えてしまうのだろう。
さっきまでのどろどろした自分が恥ずかしくて。
そんな事よりも、何よりも君がキレイ過ぎて。
キレイ過ぎる君は、小さな私の心に入りきらなくて、ボロボロと涙が溢れ出る。
私は君を零してしまいたくなくて、下を向き唇をかみ締めて涙を止めようとした。
…やっぱり私は君がいなきゃ駄目だ。










「ちょ、ちょっと泣かないでよ!周りから見たら俺が泣かしてるみたいだよ!」
「キヨが泣かしてるんだよー…うっうっ…あ〜…もう…」
「え?マジで?!よしよし、判った、俺が悪かった!だからもう泣くな!」
君は慌ててあやすように私の頭を軽く何度も叩いた。
「痛いよー…」
「痛かったッ?!ご、ごめん!あ゛ーー!こんな時にまた電話だぁぁ…。」
「…だ、誰?」
「ちょっと出て!!」
君は私に携帯を差し出した。
携帯の画面には“あっくん”と表示されている。
「ええー…だって和解したんじゃないの?やだよー…私だって怖いよー!」
「お願い!ほら、が出たらあっくんの怒りが収まるかもしれない!」
「私まだ死にたくないー……ヒック、ヒック…もしもしあっくん…?え…泣いてないよ〜…。
 うん…だってキヨがいじわるするからーー…。」
「ちょっと待ってよ!マジで殺されるから…!!!!」

























君が使う魔法が、


私も使えたらいいのに。



















そんな事をふと思った、君と歩幅を合わせて歩く…ごく当たり前の夕日がきれいな帰り道。





















END


自分でも趣旨が判りません。甘くもなんでもないです。
普段はちゃらちゃらしてるんだけど、急に真面目になる…それがキヨのイメージなんだけど。
Fさんを始めキヨ好きのみなさん…退屈で眠くなる話でごめんなさい、文才に恵まれない私にはこれが限界です。
好きな人の笑顔やたった一言でどろどろした蟠りが一瞬で溶けて消えていくような…そんなのが書きたかった。
だけどうまく表現しきれませんでしたアハ☆(笑うしかねぇよもう)
あっくんはゲストで(笑)