の よ う に 笑 う 人




















「暑い…」














「暑い…」















「暑い…」




















「うるせぇな!!!!!こっちまで暑くなんだよ!!!!!!!!!!」
















放課後の教室で机にうつ伏せになり体全身で夏の暑さを強調していた。
日直がさっさと電気を消して帰ってしまったために教室は薄暗かった。
私以外で残っているのは宍戸一人しかいなかった。
今日の暑さは朝から半端なかった。
この暑さでは家に帰る気力すら沸かなかった。
外からは遠くで野球部の声や、吹奏楽部の楽器の音が聞こえた。
暑苦しい野球部の声援や、下手くそなトランペットが脳に響いて不快感が増した。
こんなに暑い中で部活だなんだやれる人間が理解出来ない。
私の後ろの席の部活に熱心な奴も、何やら部活用のバックの中身を整理している様子。
がさがさと荒っぽい音が後ろから聞こえる。
私は机に伏せてだらけたまま後ろから聞こえる宍戸の声と会話をした。











「だって暑いじゃーん…なんで今日に限ってクーラーついてないの?」
「知るかよ、俺に聞くな。調子悪ぃんだろ。」
「あーりえないしー。ああああ暑いー。」
「…ったく、うぜぇ奴だな。」
「宍戸はこれから部活?よくこんな暑いのにテニスなんて出来るよねー。」
「うるせぇよ。なんだって良いだろ。」
「はいはい、頑張ってー。鳳君によろしくー。」
「なんでテメーが長太郎によろしくすんだよ。」
「あの子可愛いし、いい子だから好き。ってあれれ焼きもちですか、宍戸さんv」
「ちげぇよ!!長太郎がテメーなんて相手にする訳ねぇだろ。」
「(ってあたしじゃなくて鳳君ですか)」











クーラーがつかないため、教室の窓は全開になっている。
真っ白なカーテンが風に揺れていた。
風のリズムに揃えて打っては返す波のようで。
頬にかかる微かな風が気持ち良かった…微かな風はこの暑さには到底適わないけれど。
誰もいない教室はとても静かで(うるさいのは私だ)カーテンの揺れて擦れる音が微かにする。
たまにまた野球部の声や吹奏楽部の音がするけれど、暑さで朦朧とする意識の中、
私は何も考えずにぼーっとその風の音に聞き入っていた。
こういう幸せな死に方が出来たらいいな…なんて思った。
単純そうな宍戸はこの自然に気にする事もなくひたすらバックをあさっていた。
人が風の音に聞き入ってる時に…さっきの台詞をそっくり返したかった。
私は体を起こして後ろを向いた。











「ねぇ、さっきから何探してるの?」
「ん?ああ、携帯がない。」
「携帯?なんでんな大切なもんなくすのさ。」
「知るかよ、確かこん中に突っ込んだ気がすんだけどな。」
「家に忘れたんじゃないの?」
「いや、持ってきた。」
「あ、あたし鳴らしてあげよっか?」
「おう、頼む…ってちょっと待て!!あ、いや、平気か…多分バイブになってっから。」
「何どもってんの?静かにしててよー。」














私は携帯を取り出して宍戸のメモリを探した。
宍戸の携帯に私の着信履歴が残る事がちょっとだけ嬉しかった。
君は君の番号がちゃっかりメモリ00になってる事なんてきっと知らない。
君の着信音が一人だけ違うことももちろん知らない。
私の暗証番号は実は君の誕生日なんて絶対に知らない。
…知られても困るけど。
私はさりげなく立ちあがり椅子ごと後ろに向けて、そして座った。
宍戸の机をはさんで向き合う形になった。















…………。

















「呼んでるよ?」
「…鳴ってるか?」
「鳴ってない。」
「マジかよ、本気で落としたノリ?」
「しっ!」
「………。」






















「あ!!留守電になった!金取られた!最悪!」


















「マジで落としたか俺。」
「宍戸なら有り得る。あ、通話料返してね。」
「お前に言われたかねぇよ。あーマジ激ダサだし、俺…。」
「仕方ないなー、もう一回鳴らしてあげるよ。」
「おう、頼む。」




















…………。




















「鳴ってないね。」
「……だな。」
「あたし知らないよー。」
「あー…凹む…新しいのに買い換えたばかりなのによ…」













…………。











二人で息を飲むように耳をすましたけれど、
鳴っているのは風の音と私の携帯からする発信音だけだった。
こんなにも静かだと二人の声が大きく聞こえてなんだか恥ずかしくなった。














「留守電になる前に切るよ。」
「おう…ありがとな。」
「うん。」
「……静かだな。」
「……ですね。」



















…………。















「ってなんか話そうよ;」
「お、おう…。」
「………。」
「………。」
























遠くでどこかの部活の笛の音がした。
(ところでこの人は部活にいかないのだろうか?)
なんだか耳をすましていた時の余韻があって気まずかった。
この人は自分からベラベラ話すタイプではないから
私から何か話題を出した方がいい気もしたのだけれど…なんだか出てこなかった。
私は目を合わせることが出来なくて、下を向いて机の模様なんてながめたりした。
そう言えばこれは宍戸の机なんだとか思っていたら変な汚い字の落書きを見つけた。
カンニングか?と思いよく見たらカタカナが並べてあって多分テニス用語だろうな。
授業中の授業なんて上の空でテニスの事を考えている彼の姿を想像したら
微笑ましくなっておかしくなって一人で笑いそうになった。
本当にこの人はテニスが好きなんだな…とか考えて。
私は静かに視線だけを上げ宍戸の方を見たのだけれど
宍戸はわざとらしく視線を窓の方にそらしていた。














「何、見てるの?」
「……ま、窓?」
「窓ってなんだそりゃ;」
「こう暑いと探す気も起きねぇ。」
「部活行かないの?」
「行くよ、もう少ししたら。とりあえず跡部に遅れるって連絡しとくか。」
「…携帯ないじゃん。」
「!!!」





















神様がいたとしたら宍戸の携帯をどっかにやってくれた事に感謝します。
こうして久しぶりに二人で話すことが出来たから…宍戸には悪いけど。
さすがに無いと可哀想なので、今日中には見つけてあげて下さい。
ワガママを言うと…もう少しだけ、もうちょっとでいいので隠しておいて下さいね。






















「仕方ないから私が代わりに連絡しといてあげる。」
「悪ぃな。ってお前跡部の知ってんのか?」
「うん。去年クラス同じだった。あたし結構話せるよー。すごいっしょ。」
「ふーん。」
「この前ハーゲンダッツおごってくれた。しかも一番高いの。」
「へー。」
「宍戸はガリガリ君で精一杯だもんねぇ。」
「悪かったな庶民でよ。」
「あたしを嫁にしたかったらせめてハーゲンダッツ買ってくれなきゃね〜。」
「心の底からいらねぇし。さっさと連絡しろよ。」
「何機嫌悪くなってんの?可愛い所あるじゃないの、宍戸君。」
「は、はぁッ?バ、バカじゃねぇの///?」
「またまた〜v」
「俺はた、ただ携帯ねぇから機嫌が悪ぃんだよ!!」
「はいはい。」
「あ゛ーうぜぇなどいつもこいつも。」
















宍戸は怒って後ろを向いてしまった。
私に背中を向けてブツブツ言いながらさっきと同じようにバックの中を捜し始めた。
だから2回鳴らしても無かったじゃん…とは、あえて突っ込まずにおいた。
怒ってるんだか照れてるんだか知らないけど、私はこの人のこういう所が好きだったりする。
跡部君の話をしたのは別にわざとじゃないんだけど…って自惚れかなこれは。
宍戸は連絡事項について何も触れないから適当に文章を作って送信した。









「送ったよ。」











…………。













「ちょっと何怒ってんのー…?」
「怒ってねぇよ。」
「だから連絡したよ?」
「さっき聞いただろ。」
「(はぁ……)」













「ねぇ宍戸ー」












「ねぇってば、宍戸聞いてる?」











「宍戸ー」









「シシドーー」









「宍戸錠ー(古)」








「宍戸さーんv(うわ、似てな!)」












…………。

















「亮ー。」




























「なッ///////なんだよ!!!!!!!!」
「あ、こっち向いた。」
「テメーが急に名前で呼ぶからビビったんだよ!!!」
「は、はい…すいません(てか、あたし悪いことした?)」
「あ゛あ゛あ゛…!!!!!!」
「ど、どうしたの?暑さでおかしくなった?」
「うるせぇよ!お前にだけは言われたくねぇよ!!!」
「あ、跡部君から返信着た。」
「……なんだって?」
「“まぁ俺様からすりゃ安いもんだ”だって。」
「はぁ?なんて送ったんだよ?」
「“この前は高いアイスをどうもありがとう”って。」
まじ逝けお前!!!!!!!!!!


















本当は…
“宍戸が携帯なくしたらしくて探してるから少し遅れるだって”って送って
“遅刻は10分までなら許すって伝えろ”って着たんだけどね(笑)
もう少しだけ一緒におしゃべりしたかったんだ…ごめんネ。
だけど宍戸は私が使えないと判ったらしく慌てて立ちあがった。
部活に行く気になったらしい…逆効果だったかな;













「もう行くの?」
「バカに付き合ってらんねぇからな。」
「そうですか。携帯どうするの?」
「知るかよ、長太郎にでも買わせるからいい。」
「うわ、最低ー。」
「うるせぇ、先輩の特権だ。」
「いいなぁ、お金持ちの友達に可愛い後輩がいて。」










、お前も早く帰れよ。じゃーな。」
「うん。頑張ってねー。」









宍戸は大きなラケットが入っているバックを背負って慌てて教室を出ていった。
今は4時8分だから…まぁ走っても10分には間に合わないだろうな、可哀想に。
宍戸が開けっぱなしにしたドアから少しだけ風が吹き抜けた。
まるで宍戸が風を連れてきたみたい。
宍戸の慌ててバタバタ走る足音が聞こえておかしくなって一人で笑ってしまった。
足音は段々と小さくなってそして風に紛れこむかのように消えていった。
一人残された教室はさっきよりも静かで、風の音と野球部の声と吹奏楽部の音が聞こえた。



















…あれ?
宍戸、なんかどさくさに紛れて私の名前呼ばなかった?
あれれれれれ…////////
























「遅刻は10分までって伝えたよな?」
「は?なんの話しだよ?」
「とぼけんのか?お前、いつからそんな偉くなったんだ?ちゃんとに伝えただろ。」
「俺はアイスの話しか聞いてねぇよ。」
「アイス…?お前、暑さで頭イかれたんじゃねぇの?」
「あいつと同じ事言うんじゃねぇよ!だからハーゲンダッツが」
「オイ樺地、この馬鹿を保健室に連れてけ。」
「…ウス。」
















「なぁ、岳人…さっき更衣室で鳴ってた携帯…宍戸のやろ?」
「あ?あの置きっぱなしの青いやつ?マナーにしとけよな。ってそれがどうかしたのかよ。」
「いや…大した事あらへんけど。俺、昨日映画のDVD見たんや。」
「この前言ってたラヴいやつだろー?あんな甘ったりぃのよく見れるよな、侑士。」
「そや。ヒロインがキレイで最高やったわ…ええ話や、お勧めやで。
 最後の最後で恋人同士結ばれてな、やっぱり一番大切な物は愛やで岳人。今、思い出しただけでも泣」
「んな話、聞いてねぇよ!(さりげなく最後のネタバレしやがったし)それが宍戸と何の関係あんだよ。」
「せやな…その映画のテーマ曲が流れとった、宍戸の携帯から。」
「はー?宍戸の携帯からー?間違いなんじゃねぇの?」
「いや、確かにあの曲やった。俺が聞き間違う訳あらへん。」
「宍戸はロッキーとかそっち系だろ?ギャハハ!」
























END











うわぁぁぁぁぁ……痛い。
暗いのばっかりだったから、甘くしようと頑張った、どこが?とか言わない。
どうですかM様。クーラー壊れてますが(笑)
最後の侑士と岳人の会話は判りにくかったと思いますが、
ハチクロの真山がリカさんからの着信音をムーンリヴァーに設定してる所からネタを頂きました(笑)
題名が「風のように笑う人」なんだけど宍戸さんは1回たりとも笑ってない…あいたたた。